知ればトクする共済制度

1つの制度で3つの税優遇

医者に多い未加入者


 生命保険に比べて安い掛金で、もしもの時の保障に備え、さらに確実に節税効果を見込めるとして、中小企業や個人事業者向けの共済制度が注目を集めている。なかでも、必ず押さえておきたいのが「小規模企業共済」と「経営セーフティ共済」という2つの共済だ。経営危機に備えられることに加え、さまざまな税優遇による節税効果が見込める両制度は、ほぼ全ての中小事業者を対象としていることが特徴となっている。


 「もしもの時のために日頃から掛金を積み立てておく」という点では生命保険と似ている共済制度だが、営利性や監督官庁、根拠法令などさまざまな部分に違いがある。加入する側から見た時の大きな違いとしては、①生保に比べて掛金が安いこと、②共済制度ごとに加入資格が設けられていること――が挙げられるだろう。

 

 有名な共済制度としては、例えば東京都の都民共済や、JAが運営するJA共済などがある。もちろん都民共済であれば、東京に住む人か働く人しか加入することができない。そうして加入者を絞っている分、よりきめ細やかで加入者のニーズに合った保障内容を備えていることが共済制度の強みと言える。

 

 しかし共済制度のなかには、ほとんどすべての中小事業者が加入できる制度もあり、それらの共済は生命保険に比べれば保障の最高額では劣るものの、掛金の安さや税制面での優遇などで生保に負けない利点を持っているものもある。特に中小事業者ならば必ず知っておきたい共済制度が「小規模企業共済」と「経営セーフティ共済」の2つだろう。

 

名称は「企業」でも個人加入OK

 小規模企業共済制度は、小規模企業の役員が退職した後の生活資金や、個人事業主が廃業した後の再起をサポートするための共済制度だ。同共済は3年連続で加入者を増やし、2015年時点で167万人が加入し、同年度は5250億円を支給している。

 

 同共済の特徴の一つとして、常時使用する従業員が20人以下(サービス業、小売業は5人以下)の会社の役員か、個人事業主であれば誰でも加入できる点がある。以前は個人事業主の家族従業員の加入は認められなかったが、7年前から、共同経営者としての実務を担っていれば、個人事業主1人につき2人まで加入を認めるよう改められた。

 

 強みは何と言っても、掛金の払い込み時や受け取り時に複数の税優遇を受けられることだ。共済への掛け金は、月額1千円から7万円までの範囲内で自由に設定でき、全額が所得金額から控除される。さらに受け取り時には、一括受け取りならば「退職所得」、分割受け取りならば「公的年金等の雑所得」として、それぞれ税制上の控除枠が設けられている。一括と分割の併用による受け取りも可能なため、自分のライフプランと控除枠に合わせて共済金を受け取り、最適な節税を行えるわけだ。

 

 そして3段階目の節税として、加入者が共済金を受け取らないまま死亡した時は、相続人が受け取る共済金は「退職手当金等」として「相続人の数×500万円」の非課税枠が利用できる。例えば配偶者と子2人なら、受け取る共済金のうち1500万円が相続税の課税対象外となる。その他、積み立てた掛金の範囲内で融資を受けることができ、資金繰りに苦しくなった時の備えとしても活用できるだろう。

 

 同共済については、「個人事業主だけでなく法人でも加入できることを知らずに、資格を満たしているにもかかわらず加入していないという中小企業が少なくない。また個人事業者でも、医者やフリーランスのライターなど、制度そのものを知らなかったという人も意外に多い」(東京都内の税理士)という。「小規模企業共済」という名称から自分に関係ある制度だと考えていなかったということかもしれないが、法人か個人事業者かにかかわらず、一度資格について確かめた上で、加入を検討してみたい。

 

 ただし医療法人など一部の法人は加入できないこと、節税効果を除いた支給金額だけで計算すると20年までの任意解約は元本割れするなどのリスクがあることに留意したい。

 

倒産防止の共済制度も

 もう1つの「経営セーフティ共済」は、中小企業の倒産防止を目的とした共済制度で、共済保険としては最も中小事業者の節税対策に使われているものだ。制度そのものは古くからあるが、11年の東日本大震災を機に大きく拡充された。災害による不渡りや特定非常災害による支払不能が共済事由に追加されたほか、共済金の貸付限度額の倍以上の拡大や、掛金総額の限度額の引き上げなど、多くの面で使い勝手のよい制度となった。資本金の額や従業員の数によって加入資格が設けられているものの、実質的にはほぼすべての中小事業者が対象と言っていい。

 

 同共済で見逃せないのが節税効果だ。掛金は小規模企業共済より高く、月額20万円まで5千円刻みで自由に選ぶことができる。もちろん全額が損金算入可能だ。年額払いに変更することもでき、掛金総額800万円までの範囲内ならば、最大で240万円を特定の時期に一括損金計上して利益調整を図ることができるわけだ。

 

 当然、節税だけでなく、制度の最大の特徴は共済の目的でもある経営リスクへの備えとなる。取引先などが倒産した時には、最大8000万円を無利子、無担保、無保証で借りられる。さらに必要な事業資金の貸し付け、解約時の手当金など、多くの保障が用意されているので、資格などを確認した上で、加入を検討したいところだ。

 

 これら両共済の強みは、節税とリスクへの備えを同時に行えるという点だ。この強みを活かすことで自社の経営体制を強化できれば、もしもに備えるだけでなく、販路拡大や宣伝戦略といった「攻めの一手」を打つことにもつながっていくだろう。

(2017/05/31更新)