接待飲食費の5割損金化

大企業が得しただけ!?

経費にできても消費は拡大せず


 やっぱり得したのは大企業だけだった。接待飲食費の5割を経費にできるようになったことで資本金1億円超の大企業の負担が大きく減少し、900億円近くを損金として計上していることが国税庁の「会社標本調査」で明らかになった。また、国は交際費支出の負担を減らすことで飲食店での消費拡大につなげ、経済活性化を図るとしていたが、その思惑はまったく実現していないということも調査から分かった。こうした状況下で、経営基盤の強固な大企業が潤い、資金に余裕がない会社には恩恵がもたらされないことに中小企業のいら立ちが募る。


 得意先の接待や慰安を目的にした「交際費」の支出は、税法上の原則では会社の損金にならず、法人所得から差し引くことはできない。しかし資本金1億円以下の中小企業は、①交際費のうち800万円以内の額、②交際費に含まれる接待飲食費のうち5割以内の額――のどちらか高い金額を損金に算入することが可能だ。

 

 これらを超えた分は経費にできないが、国税庁がこのたび公表した「会社標本調査」によると、資本金1億円以下の中小企業が平成27年度に支払った交際費の平均額は1社あたり118万4千円で、上限を超える中小企業はほとんどないことが推測される。

 

 中小企業の年間の交際費が百万円程度にとどまるのに対し、大企業の支出額はけた違いだ。資本金1億円超10億円以下の会社では1社あたりの平均が1001万2千円、10億円超では7123万1千円だった。総額ではそれぞれの階層で1685億円と3924億円を交際費として支出している。そして、合計5609億円の交際費のうち、損金に計上したのは865億円に上る。

 

 大企業が損金に算入した額は、平成25年度まではずっとゼロだった。26年度税制が施行されるまで、交際費の損金化が認められていなかったためだ。

 

「飲食店での消費拡大を通じて経済活性化を図る」

 平成24年12月に当時の民主党から与党の座を取り戻した現政権は、税制改正大綱を例年より1カ月遅れながらも急場でまとめた。その内容は民主党が敷いた路線を踏襲するものが多く、安倍政権独自の方向性が全般にわたって盛り込まれているわけではなかった。

 

 そして安倍政権のもとで1年間腰を据えて作成された26年度改正には、企業優遇の考え方が色濃く反映された。交際費課税では、「飲食店での消費拡大を通じて経済活性化を図る」(厚生労働省の税制改正要望)というお題目のもと、企業規模にかかわらず接待飲食費の5割を損金にできるようにした。

 

 大企業が交際費の一部を損金にできるようになったものの、そのことによって消費拡大につながった様子はない。改正前の25年度と27年度の交際費の支出額を比べると、資本金1億円超10億円以下の法人で1680億円から1685億円、10億円超で3929億円から3924億円と、横ばい状態となっている。つまり、交際費が損金にできるようになったという〝にんじん〞が目の前にあっても、大企業は飲食店での消費を増やすという動きをまったく見せていない。

 

 大企業の経理に関与している税理士によると、「経理担当者には新しい会計処理の方法を覚えてもらう必要はあったが、ほかの社員は交際費課税が変わったことを知らないのではないか」と、取引先を接待する立場にある社員の消費活動が、この改正によって活発になったわけではない実態を語る。飲食店などにお金が回ってくるということはないまま、制度が変わったおかげで大企業の負担だけが減っているのだ。

 

トリクルダウンを実感していない中小経営者

 中小企業もここ数年で損金額を増やしているが、これは平成25年に始まる事業年度以降に損金算入の範囲が「600万円以下の9割の額」から「800万円以下の全額」に広げられたことによるものが大きく、接待飲食費の5割を損金にできるようになったことがダイレクトに影響したというわけではない。

 

 そもそも接待飲食費の5割を損金にできるといっても、中小企業は飲食費が1600万円を超えるとき(飲食費の5割が800万円を超えるとき)にしかその特例を適用する意味がない。そこまで支出する中小企業はほぼ皆無であり、大企業のためにつくられた特例であることは疑いようがないだろう。

 

 交際費課税の見直しに加え、法人税の実効税率の引き下げや復興特別法人税の1年前倒しの廃止など、アベノミクスは儲かっている会社への優遇策を推し進めてきた。しかし、小泉内閣以降の自民党が提唱してきた、大企業が豊かになることで中小企業や消費者にお金が回ってくるという「トリクルダウン」を、多くの中小企業の経営者は実感していない。消費税の増税などの施策でむしろ負担は年々増えており、政府の施策を疑問視する経営者は多い。

 

 政府は消費税の導入や消費税率の引き上げの際に「社会保障の充実」を理由に掲げる。しかし、消費税導入から30年が経とうとしているなかで、社会保障が充実したとはいえない。社会保障は単なる方便にすぎず、法人減税の穴埋めと位置づけられているようにも見える。中小企業はその割を食うだけになりかねず、大企業優遇策への不満の声は上がり続けるだろう。

 

 中小企業は生き残っていくために、少なくとも現行税制を最大限活用する努力が必要だ。交際費でいえば仕事に必要な飲み代であれば損金になる。業務との関係性をきちんと説明できるように、領収書を保存したうえ、参加者の名前、自社との関係性、人数などを記録しておく必要がある。

 

 ただし、本来は役員給与などの損金にならない支出を交際費として計上すると、税務調査でペナルティーを受けてしまうことは肝に銘じなければならない。また、一人あたり5千円以下の接待飲食費であれば全額が損金になる特例があることも押さえておきたい。

(2017/05/06)