会社が支出する交際費が6年連続で増加していることが、国税庁の発表した会社標本調査で明らかになった。平成29年度は前年度から5・1%増の3兆8104億円だった。接待費の増減は景気のバロメーターともされ、儲けを出した会社が増えていることがうかがえる。ただ、接待費が増えると、税務署は利益圧縮に利用されていないかと目を光らせるようになる。実際、支出した交際費が業界の標準的な額を超える会社が、交際費の損金算入を否認されるケースが目立つようになってきた。
都内で印刷業を営む砂岡創路さん(仮名)は、税務調査を受けた際に、交際費の額が「一般的な印刷業者と比べて過大」と指摘され、その内訳を徹底的に調べられた。事業との関係が不明瞭な支出は「接待の事実が確認できない」と片っ端から否認され、申告内容の修正を促された。
砂岡さんは、同業他社と比べて交際費が多額となっている理由として、事業所の近くに歓楽街があり、普段からお酒を飲みながら顧客と打ち合わせる機会が多いことを挙げ、反論した。だが、税務署がそれを考慮してくれることはなかった。
砂岡さんの誤算は、税務署が地域の特徴を考慮せずに交際費が過大か否かを判断してきたことに加え、事業と関係する支出であるという証拠を示せなかったことだ。例えば取引先と食事をすることをスケジュール帳に記していなかったため、その日の飲食代は砂岡さん個人のための支出であると税務署に判断された。接待した相手の名前を書き忘れた領収書があることも発覚し、事業との関係性を証明できない支出の一切が損金として認められなかった。
同業他社と比べて交際費が多い事業者は調査で否認されやすいので、取引先を接待したという証拠は確実に残しておかなければならない。業種別の交際費の平均値は、国税庁が公表した会社標本調査によって示されており、この数字で「自社の交際費の額は同業種の平均より上か下か」を大雑把に確認することが可能だ(表)。
1年間に支出する交際費の額が多い業種を順にみていくと、化学工業は1社当たり312万円、金融保険業は263万円、運輸通信公益事業は203万円などとなっている。ただ、これらは売上高が数兆円規模の大企業が多い業種でもあり、その大企業が多額の交際費を支出することによって平均値を押し上げているため、判断基準としては必ずしも正確ではない。
それよりも、営業収入10万円あたりの交際費支出額、すなわち「10万円稼ぐために交際費をどれだけ使ったか」という判断基準が参考になる。この判断基準で見ると、営業収入10万円を得るために最も多くの交際費を出している業種は建設業で、年間で668円を支出していた。次いで不動産業582円、サービス業463円と続く。反対に少ないのは鉱業148円、機械工業149円、金融保険業150円だった。
このデータと自社の営業収入を基に、同業種で同じ売上規模の会社の平均的な交際費を算出することができる。例えば小売業者の交際費の額は営業収入10万円あたり186円なので、営業収入が3億円の小売業者であれば、平均的な交際費の額は55万8千円(186円×3億円÷10万円)ということになる。最も高額な建設業でも営業収入が3億円なら交際費は平均で年間200万4千円程度となる。その額と比べて自社の交際費の額が大幅に上回っていれば、税務署に厳しい目で見られるおそれがあるということになる。
ただし、税務署がこの判断基準をそのまま使うとは限らない。冒頭の砂岡さんのケースと違い、地域性などの個別の特殊性が考慮されることがあってもおかしくない。また、表のように、農林水産業からサービス業までの17分類ではなく、例えば建設業であれば「土木工事業」「建築工事業」「電気工事業」などの細かい分類に基づく平均値で税務署が見てくることも考えられる。
資本金の多寡が考慮される可能性もある。資本金規模が小さい会社ほど営業収入10万円あたりの交際費の平均額が高額になる傾向にあるため、小規模企業は交際費が高額になるものと判断される可能性がある。さらに黒字企業と比べ、赤字企業は厳しくみられるおそれもある。業種ごとの平均値でおおよその境界線を把握したうえで、資本金の多寡などを踏まえ、自社の交際費の額が高額か否かを確認しておきたい。
もちろん、同業他社と比べて金額が多いというだけで交際費計上を否認されることはない。高額であれば税務署から目を付けられるおそれがあることを覚悟したうえで、会社の事業に必要な接待であったことを証明できるか、また役員のプライベートなお付き合いの費用が含まれていないか、確認しておくようにしたい。
(2019/08/01更新)