法人実効税率20%台時代

所得税と法人税

どっちで納めるのが得?


 会社が稼いだお金には法人税がかけられ、個人の収入には所得税がかけられる。赤字申告であれば法人税が不要になるため、社長を含めた役員の報酬を多額にして損金を増やす方法も有効な手段だが、報酬が高いと個人の納める税金は多くなってしまうケースもありえる。法人実効税率が20%台に引き下げられたいま、法人税を納めることになってでも個人の納める所得税額を下げるという選択をすることにより、全体の税負担が減りやすくなった。社長としては給料をたくさん受け取りたいが、税金はなるべく減らしたい。所得税より法人税で支払った方が全体の税負担が減るラインについて考えてみた。


 税金は個人で納めるのと法人で納めるのとでは、同額の所得であっても納税額が変わる。さまざまな控除制度の違いに加え、所得税と法人税では税率が異なることが大きな理由だ。

 

 個人には、所得額に応じて税率が5%から45%まで区分された所得税と、10%の住民税を合わせ、最大で55%の税負担が課される。一方、法人には所得800万円までは15%、それを超える部分には23・4%の法人税が課税される。

 

 法人税、復興特別法人税、法人住民税、法人事業税のトータルの負担率「法人実効税率」は29・97%に引き下げられ、さらに29・74%まで引き下げられることが決まっている。一方、所得税は最高税率の引き上げや控除額の引き下げにより増税となっている。これまでは法人税額をゼロにするために赤字にするという選択が一般的だったが、個人として税金を納めるより法人として税金を納めることでこれまで以上に負担が減るのなら、必ずしも赤字申告が有利ではない状況になっている。

 

黒字法人化でトータル納税額抑制

 個人が納めていた税金を法人での支払いに置き換えるやり方として、社長をはじめとした役員の報酬を減らすことで各々の所得税を減らし、一方で役員報酬の減少で損金が減った分を法人税として支払う方法がある。特に規模の小さな同族会社であれば、「会社の所得は社長の資産」でもあり、たとえ個人の所得が減っても全体の負担が減る選択は検討の価値がある。

 

 法人実効税率と所得税・住民税の税率を比べることで、法人と個人のどちらで税金を納めた方が有利なのかが見えてくる。法人実効税率29・97%で法人税を支払った方が個人での支払いより負担が減るのは、年収から各種控除額を引いた個人の課税所得のうち695万円超の部分だ。課税所得695万円超900万円以下は33%で法人実効税率より高くなる。一方、課税所得が330万円超695万円以下の部分の税率は30%で、控除額を考えると課税所得695万円までは所得税で納めても損はない。

 

 年収でみると、1000万円〜1100万円なら給与額に応じて変わる給与所得控除は約200万円になり、また配偶者控除などの控除額100万円〜200万円を控除すると、先ほどの目安である695万円になる。2000万円を報酬として受け取るより、報酬を1000万円に減額し、残りは法人税として支払った方が税金面では〝お得〞になる。

 

 1000万円まで下げなくても、高額報酬の減額には節税効果がある。例えば課税所得5000万円を受け取っていた人の報酬を1000万円減額すると、所得税の最高税率45%と住民税10%が掛けられていた1000万円の部分に、20%台の法人実効税率しか課税されなくなるためだ。

 

 赤字があるなら、報酬減額はなおのこと有効に働く。個人所得であれば所得税がかけられるにもかかわらず、法人所得に置き換えると黒字になるまで法人税は不要になる。税金が掛からない赤字部分を多額に残すのは、税金面でみると〝もったいない〞状況といえる。

 

社保料の支払負担も減少

 個人の報酬を減額することで減る負担は税金だけではない。支払わなくてはならない社会保険料が引き下がることも会社や個人にとって大きい。健康保険や厚生年金の保険料額は、給与額によって決められている「標準報酬月額」を基に算出され、基本的に会社と折半で負担する。会社のある都道府県や報酬を受けている人の年齢で社会保険料の金額は異なるが、給与を減らせば会社と個人が負担する社会保険料は大きく減ることになる。会社が負担する法人税と役員の所得税、さらに会社と個人の双方が負担する社会保険料を踏まえて適正な役員報酬額を決めることになる。

 

 ただし報酬減額という選択は速効性のある節税策ではない。役員報酬を会社の損金にするには、定期的に同じ額を支給しなければならず、事業年度の途中で役員報酬を増減させるとその額を損金にできなくなるためだ。会社の利益見通しや税制を踏まえて中期的な計画を作り、そのうえで実行する必要がある。

 

 節税面で見れば1000万円を超える報酬分は法人税で支払った方が得だが、経営者としては自分の頑張りが報酬に繋がらないと、モチベーションが下がってしまう。節税だけを考えるのではなく、総合的に判断して報酬額を決定するようにしたい。

(2017/07/28更新)