後継者不在の中小企業が全体の66・4%に当たる約18万社に及んでいることが帝国データバンクの調査で分かった。調査は2018年10月時点の同社の企業概要データベース(約147万社収録)から、2016年以降の事業承継の実態について分析可能な約27万6千社(全国・全業種)を対象に実施された。中小企業の後継者が見つからないことで、事業が黒字でも廃業を選択せざるを得ない状況に陥っているケースも目に付く。
経済産業省が17年10月に公表した試算では、今後10年間で70歳を超える全国の中小企業の経営者は約245万人と推計している。同省は25年頃までに約650万人の雇用と約22兆円分のGDP(国内総生産)が失われる可能性を指摘している。
また日本政策金融公庫が行った調査では、中規模企業で9割以上、小規模企業で8割以上が、後継者の育成には最低でも3年以上かかると回答している。後継候補の育成は中長期間にわたることから、事業承継には後継者の育成を考慮したうえでの計画的な準備が重要であると言える。
だが今回の調査では社長の平均年齢である50代で約7割、社長引退の平均年齢である60代でも約5割の企業で後継者候補が未定となるなど、事業承継時期に差し掛かる年代の後継者不在率は依然として高い水準となっている(表1)。
調査した約27万6千社の代表を就任経緯別にみると、全体の40・3%に当たる約11万社の企業が子供や配偶者、親族間で事業を引き継ぐ「同族承継」だった。次いで「創業者」(34・7%)、親族以外の従業員などが事業を承継した「内部昇格」(14・7%)となり、社外の第三者による事業の継承など「外部招聘」は3・2%だった(表2)。
16年以降に事業承継が判明した企業は約3万5千社だったが、18年は「同族承継」で引き継いだ割合が最も高く36・0%となった(表3)。16年(42・4%)と比較すると6・4ポイント低下し、17年からも2・8ポイント低下した。「内部昇格」による事業継承は32・0%、「外部招聘」は8・2%だった。「同族承継」より「内部昇格」や「買収・出向・分社化」などの割合が上昇し、全体の半数超で親族以外の社長が事業承継していた。「創業者」への事業承継が5・3%あったことも見逃せない。
帝国データバンクでは「創業者による事業承継は、70代や80代など高齢社長による事業承継が多く、一度社長職から代表権のない会長職などに退任したものの、後継候補の育成に伴うものや、経営幹部の人材不足などで、再度代表職へ復帰したケースが見られた」と指摘している。
事業承継を行いたくとも後継者候補がいない企業では、転廃業やM&Aなどを視野に入れざるを得ない。また、技術力など有用な経営資源を有していても債務負担が重い企業では、後継者や事業売却先、金融機関との調整が難航するケースもあり、事業承継を断念してしまう可能性もある。代表者の死亡や体調不良で事業継続がままならなかった企業や、後継社長への引継ぎや育成が上手くいかず、経営が立ち行かなくなったことで事業清算を選択する企業も少なくない。
約27万6千社のうち、詳細な後継候補が判明している企業は約9万3千社あったが、その後継者候補の属性について注目してみたい。後継候補として全国で最も多いのは「子供」の39・7%となり、次いで「非同族」の33・0%となった。年代別に見ると、60代以降の社長では後継候補として「子供」を選定するケースが多い一方、50代以下の社長では「親族」や「非同族」を後継候補としている企業が多く、50代では約4割が「非同族」を後継候補としていた。全国平均では「非同族」の割合が17年と比較して1・5ポイント上昇した。
また事業を承継した社長と先代経営者との関係別(就任経緯別)に後継者候補の属性をみると、「子供」を後継者候補とする企業が多いのは「創業者」(60・3%)、「同族承継」(48・5%)となり、いずれも「子供」の次は「親族」「配偶者」の順に後継者候補とする企業が多い。しかし、17年と比較すると、ほとんどで後継者候補として、従業員など社内外の第三者である「非同族」を挙げる企業の割合が増加した。
表3を見てもわかるように、経営経験や現場経験が豊富な「内部昇格」や「外部招聘」により事業承継を行った企業の割合は年々上昇傾向にあり、親族だけでなく「社内外の第三者」による親族外承継も含めた事業の継続を検討・実施する動きが徐々に広がりつつある。
帝国データバンクでは「同族外への承継に際しても利用可能な『事業承継税制』における対象制限の緩和など、国や自治体による政策的な事業承継の支援のほか、社内外の第三者へ事業譲渡を行うことに対する抵抗感が、従前より軟化しつつあることも影響していると見られる」と分析している。
(2019/02/01更新)