生駒市は増収に〝成功〟

償却資産税 自治体ごとにばらつき

全国各地で徴税強化の兆し


 奈良県生駒市が事業用資産にかかる固定資産税(償却資産税)の徴税強化を図り、4年間で1億5千万円の税収を増やした。同市には〝成功例〞を聞きつけた複数の自治体から徴税ノウハウについての問い合わせがあったという。資産の把握漏れが各地で発生していることが容易に推測でき、現状では正直に申告した事業者だけが負担している状況だ。今後、各地で徴税強化が進む可能性が高い。


 生駒市の課税課主幹は「法人開設届は毎年数十件提出されているのに、償却資産はほとんど申告されていないことに気づいたのが調査体制強化のきっかけ」と、償却資産税の徴税強化に取り組んだ理由を語る。

 

 同市は、NTTのタウンページに掲載された市内の事業所のうち、償却資産の申告がない事業所をリスト化。対象事業者に通知文書を出し、申告を依頼することで、平成25年度からの4年間で1億5千万円超の償却資産税の税収を増やした。償却資産税の徴税にタウンページを活用する例は少なく、この取り組みで同市は「平成28年度奈良県がんばる市町村応援表彰事業」の行財政部門の最優秀賞を受賞している。

 

 同市の〝成果〞は話題になり、複数の自治体から「ノウハウを教えてほしい」という内容の問い合わせがあったそうだ。ある自治体からは、「生駒市が4年間で1億5千万円の税収増とのことなので、ウチは3年間で1億円を目指すことになりました」と、体制強化に乗り出す旨の連絡があったという。今後は各自治体が償却資産税の徴税に本腰を入れる可能性が十分ある。

 

事業者の申告で課税される固定資産税

 償却資産税は、事業に使う建築設備や機械装置、看板などの資産(償却資産)に掛かる固定資産税だ。耐用年数が1年未満または取得価格が10万円未満の減価償却資産などには課税されない。税額は耐用年数と減価率を考慮して市町村が決める「固定資産税評価額」の1・4%であり、仮に資産額が1千万円なら税額は14万円になる。

 

 登記情報で市町村が現況を確認できる土地や家屋といった固定資産と異なり、償却資産は所有している事業者自身が申告し、それを基に課税されることになっている。しかし、生駒市の課税課主幹によると、償却資産を申告していない事業者は多いという。実際、同市がひとつの地区内の全事業所を台帳と突き合わせた結果、6割で償却資産が未申告になっていたそうだ。

 

 地方税に詳しい都内の税理士は、未申告者だけではなく、〝つまみ申告〞という手法を使っているケースもあると語る。

 

 「償却資産の一部だけを申告する〝つまみ申告〞によって、資産額を償却資産税の免税点である150万円未満に抑えている事業者がある。一応申告しているので安心感がある。そして、市の担当者から確認の電話が来ることはあっても、現地調査は行われないと高をくくっている」

 

 同氏は、つまみ申告をする事業者は、業種ごとに注意している点があると付け加える。例えば理容業であれば、洗面設備やレジスター、いす、赤・白・青の円柱型の看板(サインポール)などの資産を申告しないと、申告漏れがあることがすぐに疑われるというわけだ。

 

 もちろん、実態と異なる申告をすると罰則の対象になる。申告漏れは最大5年間遡及し、延滞金や罰金が加算される。虚偽の申告があったと判断されると罰は重くなり、1年以下の懲役または50万円以下の罰金の対象となる。

 

 それでも無申告やつまみ申告があるのは、仮に申告漏れが疑われても、市町村の課税担当者には資産を把握する術があまりないためだ。償却資産の多くは建物のなかにあり、事業所のなかに入らなければ確認できない。しかし、多くの自治体では専門の担当者は少ない。生駒市によると、固定資産税の家屋部分の担当者が償却資産も兼任しているなど、特に地方では人員不足の自治体が多いという。

 

日税連が制度の廃止求める

 日本税理士会連合会では、税務職員の人員不足やノウハウ不足を問題視し、「事業者間の課税の公平が維持できない」「納税者の税制に対する信頼を損なうおそれがある」と指摘している。また、国税の減価償却制度と償却資産の評価方法との間に不整合があること、国税の申告とは別に申告が必要であるため事業者の事務負担が増えること、特定の業種に重い税負担が偏っていることも制度の問題として挙げている。これらのことから、現行制度をそのまま存続させるのは税制のあり方として「容認できない」と断じ、制度を廃止または大幅に縮小することが適当であると主張している。

 

 平成29年度税制改正大綱には、「市町村財政を支える安定した基幹税であることに鑑み、償却資産に対する固定資産税の制度は堅持する」といった文言が盛り込まれている。大綱にわざわざ記載しているほど守りたい税収だということだ。

 

 実際、償却資産税の税収は全国合計で約1兆5500億円に上り、市町村の税収総額の7・3%を占めている。地方自治体としては何としても堅持したい重要な財源になっており、国が現時点ですぐに制度を変える可能性は低い。

 

 生駒市から徴税ノウハウを確認した一部の自治体ではすでに徴税強化に動き出しているという。今後、各地で徴税強化が進む可能性は高い。償却資産の把握漏れは自治体の体制整備の不徹底や制度の不合理性による部分もある。また、償却資産税を含む固定資産税には、過徴収という問題も付きまとう。

 

 単純な徴税強化よりも、行政の体制の根本的な部分を改める必要がありそうだ。

(2017/03/30更新)