エリアで変わる相続税対策

あなたの土地は 上がり目? 下がり目?


 国土交通省が公表した2019年の基準地価によれば、全国の平均地価は前年から0・4%伸び、バブル期以来27年ぶりにプラスに転じた前年からの上昇傾向を維持した。しかし一部の商業地の高騰が平均を押し上げる一方で観測地点の約半数では下落が続くなど、地域ごとの明暗は分かれている。単に現金を不動産に換えるだけではなく、自分の土地の地価動向に合わせた相続税対策が求められる時代が来ている。


 国土交通省がこのほど公表した2019年の公示地価によれば、全国の土地は引き続き上昇傾向を維持し、下落が続く地点でも下げ幅は縮小しつつあるという結果が出ている。

 

 もっとも、内容を詳しく見てみると、日本全国の景気が等しく良いとは言えないこともうかがえる。全国に2万1500ある調査地点のうち、約半数の48%では地価の下落が続いているのが現状で、東京・大阪・名古屋の3大都市圏を除いたエリアは「地方圏」と一まとめにされているものの、その平均を引っ張り上げているのは札幌、仙台、広島、福岡のいわゆる「札仙広福」の中枢都市に他ならない。

 

 都道府県ごとの平均をみれば、47都道府県のうちプラスになっているのは住宅地で15都府県、商業地でも19都道府県に過ぎず〝土地バブル〞は限られたごく一部の話で、日本列島の大部分では地価が下がり続けていることになる。

 

 また、限られた一部の〝土地バブル〞についても、基準地価が示すデータからは、崩壊の兆しとも取れる動きが生まれつつある。例えば7年連続で全国最高価格を維持している東京都中央区の「銀座2 -6 -7」は、価格こそ伸び続けているものの、その伸び率は2016年には前年比25・0%だったものが、翌17年には17・9%へ、さらに18年には7・7%へと鈍化している。そして今回の伸び率は3・1%と急激に鈍り、数年以内に上げ止まる気配を見せている。

 

基準地価は2年連続のプラス

 さらに基準地価のデータと補完関係にある公示地価のデータも重ね合わせると、よりくっきりと地価動向の変化が見えてくる。両調査で共通する全国の調査地点について、近年の上昇率を見てみると、半年前の公示地価と今回の基準地価とでは、住宅地が0・8%から0・7%へ、商業地で2・4%から2・3%へ、わずかであるものの上昇率が縮小していることが分かる。住宅地の上昇率が縮小に転じるのは4年半ぶり、商業地では東日本大震災のあった11年上期以来8年ぶりだ。これらのデータから予測するに、まさに今回の19年基準地価こそが、地価動向の〝折り返し地点〞となる可能性は否定できない。

 

 相続を考える上で、土地対策は欠かせない。現金は額面通りの10割で相続財産として評価されるのに対し、土地は少なくとも7〜8割、さらに宅地などであれば5割以下の額で評価されるからだ。昔も今も相続税負担を減らすために預貯金を土地に換える手法は定番の相続税対策と言っていい。

 

 しかし、ここ数年は地価が顕著な上昇傾向にあったことから、現金で土地を購入しても、結果として相続税負担が増えてしまうリスクが生じていた。そのため売却を含めた出口戦略や納税資金対策が併せて求められてきた。自宅として相続させることを考えるなら納税資金対策が必須となるほか、更地のまま放置していると相続税評価額が宅地の数倍にも跳ね上がるため、何らかの建物を建てるなどの相続税対策を行った人もいるだろう。

 

無視できない消費税増税の影響

 ところがここにきて、所有する不動産の地価が下落に転じるとしたら何が変わるだろうか。上昇し続ける地価を基に相続財産としての価値を想定して、遺産分割での相続人の間のバランスを考えていた場合、地価の下落を踏まえた再計算が必要となる。例えば後継者である長男には全自社株を引き継がせる一方で、次男には自宅を相続させることでバランスが取れていたはずが、自宅の価値が下がれば、次男の不満のもとになりかねない。自社株を分散させたくないのであれば、それに代わる現金や生命保険などを用意しなければならないケースも出てくるだろう。

 

 また、持っている土地が商業地の投資用不動産などであれば、最適なタイミングを見計らっての売却も検討する必要がある。いつが〝天井〞になるかはエリアごと、さらにいえば物件ごとによって異なるため、綿密なシミュレーションと決断が必要になる。どちらにせよ、現在の地価高騰は機関投資家などによる投資熱がけん引しているバブル的な側面もある点を踏まえ、下落に転じた時のリスク対策は必ず講じておくことが求められる。

 

 消費税の増税が不動産市場にどう影響していくのかも、今後の地価動向を占う上で外すことのできない要素となる。14年の8%への引き上げ時には、新築マンション契約件数が1カ月で4割落ち込むような顕著な影響が見られたが、今回の増税では住宅取得資金贈与の非課税特例の拡充や次世代住宅ポイントといった手厚い増税対策が施されることもあり、不動産価格にそこまで大きな影響は出ないとも言われる。

 

 しかし各種の期間限定の経済対策が終わった後、10%の負担が日常生活に食い込んでいくなかで、これまでのように地価が上昇を続けていくとは限らない。来たるべき〝天井〞を見据えて賢く立ち回らなければ、相続税対策に失敗し、バブルの二の舞となる可能性もゼロではないだろう。

(2019/12/03更新)