それ、贈与税がかかります

本人にその気がなくても…


 贈与税は、その年の1月から12月のあいだに授受があった資産について、翌年に確定申告をする。当人同士が納得済みであればいいが、毎年後を絶たないのが、本人にはその気がないのに贈与扱いされてしまう「うっかり贈与」だ。定期保険の保険金、増築費用、車、不動産などうっかり贈与の恐れのある資産は多い。もし意図しない贈与を行ってしまったなら、その年のうちに何らかの対策を講じる必要がある。


 贈与税は、年間110万円を超える財産をもらった人が、その額に応じた税率に従って納める税金だ。納期限は財産をもらった翌年の確定申告期の末日で、例えば昨年もらった財産にかかる贈与税は今年の3月15日までに申告して納めなければならない。

 

 贈与が税負担を前提にした計画的なものであればいいが、そのつもりはないのに贈与と認定されて税を課されてしまうケースもある。俗に「うっかり贈与」と呼ばれるもので、贈った本人としてはちょっとしたプレゼントや、妻や子の名義を借りただけのつもりが、ある日税務署から贈与税の申告についての問い合わせがあって仰天することもあるようだ。

 

 うっかり贈与の代表的なものには、親から子への高級なプレゼントが挙げられる。贈与税の課税対象は金銭だけでなく現物も含まれる。親が子に援助をすることは税法でも認められていて、生活費の支援や学費を払うことがいちいち贈与税の対象となることはないが、あくまで非課税とされるのは「通常必要とされる」範囲内だけで、例えば高級車や宝石類、不動産などは含まれていない。

 

クルマや宝石、増築費用も

 例えば車であれば、税務署は定期的に陸運局で車検の名義をチェックし、学生が自己資金で車を買えるはずがないと判断すれば「お尋ね文書」を送り、贈与の事実を把握する。また宝石ならば、定期的にデパートや宝石商などに出向き、優良顧客や高額取引のリストを作成し、小売店の売上伝票を反面調査することで、贈与の事実を把握するそうだ。こうした高額なプレゼントの贈与認定を避けるためには、例えば車の場合には名義は自分のものとしておき、そのうえで貸す形をとれば原則として贈与税が課されることはない。

 

 住宅の増築費用などもうっかり贈与に当てはまりやすいケースだ。子ども名義の家に、三世代同居を目的とした増築を施すと、お金を出したのが誰であれ、増築部分は元からある家に吸収されるかたちで子の名義となる。その費用を親が負担していた場合、親から子への贈与とみなされてしまう。

 

 贈与税を避けるためには、増築にかかった費用に当たる持分を親に移転する方法が考えられるが、この方法だと子に譲渡所得税がかかってしまう可能性がある。もっとも安心なのは、住宅の取得や増築のための一括贈与を非課税にする特例を活用することだろう。昨年行われた贈与であれば、省エネ等住宅なら1200万円、それ以外でも700万円までの贈与を非課税にできる。

 

 ただし適用するためにはもちろん手続きが必要なので、今年2月〜3月の申告を忘れないようにしたい。なおこの特例は、子や孫といった〝卑属〞への贈与に限定された特例なので、親が所有する家の増改築にかかる費用を子が負担する逆パターンでは使えない点に注意が必要だ。

 

満期保険金には要注意

 そして、うっかり贈与のなかでも対策のしようがない可能性があるのが、定期保険の保険金だ。若いころに定期の生命保険契約を結び、受取人に妻の名前を記入していたケースで、そのまま満期を迎えて妻が保険金を受け取れば、妻には贈与税が課されてしまう。

 

 贈与税負担を避けるためには、満期前に受取人を変更する必要がある。保険料を支払った本人に変更することで税負担を減らすことが可能だ。契約者も受取人も夫であれば保険金は夫の一時所得となるので所得税が課されるものの、特別控除50万円を差し引いた額の2分の1のみが課税対象となり、基礎控除110万円を除いた全額に課税される贈与税とは実際の税負担が段違いとなる。

 

 しかし、すでに保険金を受け取っているなら対策は難しい。例えば現金の授受であれば、同じ年のうちに現金をそのまま返すことで、贈与そのものをなかったことにできる可能性がある。だが保険金は下りた時点で贈与が成立しているとみなされてしまい、後から保険金を返しても、贈与税がかからないどころか、贈与が2回あったとして二重に課税されてしまう。

 

 贈与の事実認定は本人同士の「あげた」「もらった」という意思があって初めて成立するため、例えば妻が保険の存在を知らず、口座も夫が管理していたというのであれば、贈与が成立していないと認められるかもしれない。だが、贈与税を課される可能性が完全には排除できないことを考えれば、できるだけ満期を迎える前に名義変更などの対策を講じておきたいところだ。

 

 最後に、うっかり贈与のなかでも非常に珍しいパターンとして、「あげた側が贈与税を肩代わりする」というケースもある。贈与は渡す側と受け取る側の二者で成立するが、贈与税の納税義務があるのはあくまで受け取った側だ。それをあげた側が負担すれば当然、その税額分が新たな贈与となってしまう。初歩的なミスではあるが間違わないようにしたい。

 

 贈与税に関する基本的な注意点として、「暦年贈与の年間110万円の非課税枠は受け取る側1人当たりの上限」という点がある。税負担なしに財産を贈与したいと思うなら、ほかの人から贈与を受けていないかの確認を忘れてはいけない。

(2019/02/05更新)