民事信託での相続対策

遺留分の取り扱いは?


 相続対策の手法として、家族などに財産を託して管理を行う「民事信託」がある。2007年の信託法改正で可能になった手法で、議決権を切り離した株式の分配、共有不動産の円滑な管理、使途を限定した財産引き継ぎといった、いわば〝思い通りの相続〞を実現できるというのが売りだ。

 

 相続の常識を覆すと言ってもいい民事信託だが、新しい手法なだけに、まだ法解釈が定まっていない部分もあることには注意したい。その代表的なものが、相続人が法律上最低限取得することができる「遺留分」だ。

 

 これまでの相続では、たとえ遺言などで特定の人間に全財産を譲り渡すと書いてあっても、法律上定められた遺留分については絶対に侵すことができなかった。しかし民事信託について規定した信託法は、民法上の「特例法」として置かれている。特例法は原則として優先されるため、民法で定められた遺留分についても無視できるというのだ。

 

 ただし、形式上はそうでも相続人の正当な権利を侵害する手法がまかり通るはずはないと否定する専門家もいて、正解ははっきりしない。新しい手法のため判例も存在せず、今のところ実務家の間では「信託を使えば遺留分の請求がされづらい」程度の言い方にとどまっているようだ。(2017/08/20)