労務上のトラブルがこじれると、会社が支払った解決金に対する税務上の扱いも判断が難しくなる。
たとえば、管理職のAさんがパワハラ問題で従業員から訴えられたとする。解決を図るべく、会社が当事者と協議して和解が成立。その条件は、被害者である従業員に解決金を支払うことだ。
しかしAさんは、解決金の負担について一度は了承したものの、パワハラの事実関係については納得できない点があるとして、解決金の支払いを改めて拒否。そのため会社が負担することになった。
すると、会社側の損金算入およびAさんに対する経済的利益の供与の問題が出てくる。一方、Aさんは依願退職を申し出ているので、会社は退職金の一部を天引きする形で解決金を負担させようと考えた。だが、税務上に問題があるかもしれないと、会社は税理士に相談。
税理士の答えは、次のようなものだった。会社(法人)自らが負担すべき解決金には損金算入が認められる。しかし、他者が負担すべき解決金を会社が負担すれば「立替え」となり、直ちに損金算入することは認められない。それゆえ、立て替えた解決金の支払いを、本来負担すべきAさんに請求するのが本筋。だが、会社がそれを断念すれば、解決金は、その負担を免れたAさんに対する「給与」として取り扱われることになる――。
退職金で解決金の立替えを相殺することは、会計上および税務上は問題ない。ただし、労働基準法では従業員の責務と賃金とを相殺・控除することは原則として認めていない。物事は、なかなかスッキリいかないものだ。(2017/10/26)