「割れ窓理論」をご存知だろうか。軽微な犯罪を取り締まることで、凶悪犯罪も抑止できるとする環境犯罪学上の理論だ。アメリカの犯罪学者ジョージ・ケリングが考案した。「1枚の割れた窓ガラスを放置すると、誰も注意を払っていないという印象を与え、やがてほかの窓もすべて壊される」との考え方からこの名が付いた▼東京・渋谷区は、この春から3年かけて街の落書きを一掃する事業に取り組む。渋谷駅周辺では壁やシャッターだけでなく、路上駐車のバイクにも文字や図柄が落書きされている。被害者はたまったものではない▼渋谷区では専門部署を新設し、落書きの把握、被害者の確認、消去作業をすべて区の費用負担で実施する。被害者の費用負担で「書かれては消し、消しては書かれ」を繰り返していると、結局は根負けして「放置」するようになってしまうからだ▼初年度の予算は1億1千万円。1枚の割れた窓ガラスと同様、落書きを1つでも放置したままにすると、街としての無関心や無秩序を示すサインとなり、ますます被害が広がる。そして犯罪も増える。渋谷のイメージはどんどん悪化し、より巨額の税金を防犯のために使わなくてはならなくなる▼軽微な犯罪の芽を摘めば重大犯罪を防げる、渋谷区はそう考えた。官僚や議員の接待問題は決して軽微なことではない。国はどう考えるのか。